NAIST 情報科学区分 院試 文系学部からの合格体験記

はじめに

2022年度募集の奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科情報科学区分の春学期第1回試験に合格しました。

前提として、受験を考え始めたタイミングでは以下のような状況でした。ある程度ぼかしています。

東京大学情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻にも合格したため、そちらについての合格体験記も公開しています。合格までの簡単なタイムラインなどは、東大とまとめて以下の記事に記載しているので、そちらを参照ください。

inshikiroku2021.hatenablog.com

対策

数学

ごく基本的な前期教養レベルの微積・線形が出題されるとのことだったので、特別なことはしなくてよいだろうと思い、1年生の時に使っていた以下の参考書たちを何周かしました。たまたま複数冊持っていたのでなんとなくそれぞれ取り組みましたが、マセマの微積・線形一冊ずつとかでも十分戦えると思います。専攻科指定の参考書に律儀に取り組むのもよいですが、英語なので学習効率は下がると思います。

それから、有志が作成した過去問集があったので、参考にさせて頂きました。

NAIST (情報科) 入試過去問題集(数学) :最終版

NAISTが文系におすすめなのは、数学がとにかく簡単なので英語をやって研究計画を練れば十分合格を狙える点にあります。ただ、10分間で2問はちょっとでも方針に詰まると一瞬で終わりますし、面接官への解説で緊張することもあり得ますので、イメトレは必要だと思います。

とはいえ、個人的に口頭で解き方を解説する練習とかは余程あがり症だったり喋りが苦手でない限りは必要ないと思います。後述しますが、面接官はこちらに解かせてあげようという態度で臨んでくるので、圧迫感は0でした。大事なのは、見た瞬間に方針を立てられるようにすることです。自分は、ひたすら上の参考書を回す以上のことはしませんでした。

研究計画書

一番時間を使いました。4月の中旬くらいから、自分が何に興味があるかを考えつつ論文をちらほら探して読み始めました。google sholarやarXivACL言語処理学会当たりをあたりました。シンプルにワードでgoogle検索もしました。調べた内容をgoogle documentにまとめながら、こういうことがしたいかもというのを書き起こしていきました。

4月末に研究室見学をオンラインで行った際に、こういうことに興味がありますということをgoogle documentにまとめた内容を元に説明したところ、実りある会話ができました。また、計画書の添削をして下さるとのことだったので、実際に書き始めました。

GWを丸々使って第一稿を書き上げ、添削して頂きました。「データの作成方法や評価方法についての議論が必要」「例えば○○などがあるが、△△とはどのように違うかの議論があればよい」といった大まかな指摘でしたが、かなり参考になりました。修正して、5月末に完成させました。

執筆にあたり、以下のサイトを参考にさせて頂きました。この他にも、研究計画の書き方のサイトをたくさん読みました。

具体的な構成は、A4二枚の中で、これまでの修学内容について1/4、取り組みたい研究についてを3/4を使って書きました。前者は、情報科学、数学、学部の専門について章分けしました。後者は、テーマ・背景、目的、想定される手法・評価法に分けました。小論文の要件は毎年少しずつ違うので、何が要求されているかを意識するようにするとよいと思います。ガワをそれっぽくすることは重要だと思います。

参考文献は7つで、うち6つが和文でした。可能な限りACLやEMNLPなど国際学会が多い方がよいのだと思いますが、自分は結局人工知能学会誌や言語処理学会など日本のものばっかりになってしまいました。

口頭試問

面接で聞かれそうな質問を予め考えて、答えを用意してgoogle spreadsheetにまとめました。また、3分間で自分の研究計画を発表する練習を直前2日ほどで行いました。結局そういう機会は無かったです。ポイントは、とにかく自分の研究計画書に書いた内容と引用した文献についてはごまかさずに話せるようにすること、それだけだと思います。

英語

自分は英語が元々好きで得意なので、対策としてはTOEIC直前に問題集を買って頭をTOEIC脳にするくらいでした。985で提出しました。

本番

数学

微積分の方は曲線の式が与えられて、図示せよという問題でした。線形代数の方は直交基底についての問題でした。線形代数の問題の意味がパッと見で何故か理解できず、微積は数Ⅲレベルで簡単そうだったので、まず微積から解き始めました。5分くらい無言で黙々と解いていると、面接官から「どうですか?取り敢えずここまでの考えを話してくれても大丈夫ですよ」といった促しがありました。ほとんど解き終わっていたので、少しして答えのグラフを書いて見せました。「解き方の過程を簡単に教えてほしい」と言われたので、「まず増減表を書き、…」といったところで既にものすごく頷いていて、もう大丈夫といった感じでした。線形代数に移った時点で残り3分で、これは計算が間に合わないと思ったので、「計算が間に合わなさそうなので、口頭で解答の方針を説明します」と述べ、シュミットの直交化法が使えそうとか説明すると「じゃあ○○なベクトルを一つ見つけてくれれば大丈夫」と言われたので、時間ギリギリでそれに見合うものを挙げたところ、OKといった顔をしていました。

全体的にとにかく解かせてあげようという試験だと思いました。配点も小論文に比べると低いので、あまり差をつけるつもりも無いのだと思います。頭が真っ白にならなくてよかったです。

口頭試問

志望教官と、恐らくNLPとは関係ない情報科学区分の教授複数人がいました。

まず、3分間で研究の説明をするのかと思いきや、そういったフェイズは無く、志望教官から計画書を元にした具体的な質問をいきなりガンガンされました。とにかく黙ったり口ごもったりすることだけは無いように、思いついたことを片っ端から話しました。あまり納得した様子は無かったので少し不安になりました。

一通り終わると、別の先生から「応用情報技術者試験というのは、私はよく知らないのだけど、グラフ理論とかはやったの?例えば木とグラフの違いとかは分かる?」と聞かれました。自分は、(木とグラフの『違い』…?木グラフなのだから、違いというのは変だなあ。もしかして、グラフといった時にかなり狭義な、木とクラス的に並ぶ『グラフ』があるのか?だとしたら聞いたことが無いぞ…。うーん、どういうことだろう。)といったことを逡巡した挙句、「えー、木は、上からで、」といった感じでまごついていたところ、「あ、大丈夫。じゃあ質問を変えると、データ構造だとかアルゴリズムはどう?」と話題を変えられました。(『どう?』と聞かれても、何を答えればいいのだろう。)と思ったのですが、流石に何かアピールしないといけないと思い、比較ソートについて知っていることを話したところ、何となく頷いていたのでそういうことを聞きたかったのかなと思いました。クイックソートは早い、マージソートはO(nlogn)でいい感じ、みたいなことを言いました。かなり言葉足らずだったと思いますが、間違ったことは言わなかったです。

休学した際にインターンや資格の勉強をしていたとあるが、他学部の講義を受けるのではダメだったのか、という質問には、休学は他にも目的があり、情報科学の勉強はその一つに過ぎないという話を正直にしました。

感想

事前に公開されている点数配分からも分かるように、NAISTはとにかく小論文が重要です。自分のように文系で論文もあまり書いたことが無い人にとってはかなり骨の折れる作業でした。ただ、研究計画書の書き方についての情報は本を買ったりするまでもなくインターネットを探し回れば結構集まりました。一番気合い入れて取り組むべきは、論文検索と見つけた論文を読んで理解する作業です。これはグダグダやっているとかなり苦痛です。自分は腹くくってGW期間にずっと取り組むことで第一稿を書き上げました。一度書き上げると、修正は思っているより気楽です。

まぐれで東大の情報理工に受かったのでそちらに進学することになりましたが、NAISTは文系未経験NLPer志望には本当にピッタリな環境に思えます。7月に合格発表をもらった直後はNAISTに行く気満々だったので、学研北生駒に住もうかなとか、けいはんな線使えば1時間で大阪出れるからNGKとか吉本新喜劇生で観たいなとか、色々考えていたので少しだけ寂しいです。

このページが、本当にやりたいことができてNAISTに行きたい文系や非情報系の方の参考になればと思います。

 

2023/10 追記

早いもので、この記事を書いてから2年経ち修士論文に取り組み始めました。

ACL2023@トロントに参加した際に、NAISTの方とランチしたりお散歩したりしたのですが、やはり 僻地であることを除き 研究をしたい人にとって非常に環境が恵まれているのだなということを痛感しました。特に、NLP研究室のメンバが多いことと、バックグラウンドの多様性に富んでいる点は、自分の周辺の東大CSの研究室と比べて圧倒的に優位だと感じています。

結果的に諸々の事情で自分は東大の方に進んで良かったのですが、NAISTに比べると東大の研究室は小さめであることが多いので、他人と一緒に切磋琢磨したり共同研究したりするイメージを持っている人はNAISTかなりお勧めできそうだなあと側から見ていて思いました。