はじめに
2022年度募集のコンピュータサイエンス系大学院をいくつか受験しました。
結果は以下の通りです。
- 東京大学 情報理工 コンピュータ科学専攻 合格
- 京都大学 情報学研究科 知能情報学専攻 不合格
- 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST) 先端科学技術研究科 情報科学区分 合格
前提として、受験を考え始めたタイミングでは以下のような状況でした。ある程度ぼかしています。
- 文系
- NLP志望
- 基本・応用情報技術者
- 前期教養レベルの微積・線形は履修済
- プログラミングやアーキテクチャ、アルゴリズム等他学部のCS系講義をちょくちょく履修済
- 4年前期はゼミ形式の授業が週2コマでそれ以外はフリー
本ページはこのうち、東大の体験記を中心にまとめたものとなります。
NAISTについての詳細は、別記事にてまとめています。
inshikiroku2021.hatenablog.com
京大は、試験の記憶がありません。キャンパス内の喫煙所の数と広さに感動しました。受験後に高校同期と人生で初めて雀荘に行ったのがとても楽しかったです。以下、いくつか写真を紹介します。この年になってようやく京都の魅力に気づき始めました。
タイムライン
-2020/08
学部に進学して始めた勉強は面白かったが、院まで行って研究したいとは思えなかった。でも就活はまだしたくないのでどうしようと考えた結果、B2くらいから興味を持っていたCS系の大学院への進学を考え始める。
2020/09-2021/02
時々、マセマの常微分方程式とかオートマトンの本を読んでいた気がする。
期末終わり、インターン・バイト全部辞めた、アプリ完成、ポケモン辞めた。
2021/03-
3月
大学同期が卒業していった。
線形代数を一周した気がする。試験と関係ない甘利情報理論とかやる夫で学ぶディジタル信号処理とか読んでた。難しいなと思った。
NAIST受験を決める。TOEICが必要なので、一週間くらい対策をして月末に受験。
4月
東大の内部M1の知り合いに話を聞いたり過去問を探し始める。
NAIST説明会&研究室見学。
試験対策を頑張り始める。
どこを受けるにも研究計画書が必要なので、論文を探し始める。
5月
東大説明会&研究室見学。
東大に必要なTOEFLを受験。単語だけちょっと前からやった。
かなりの時間を使い研究計画書を書き上げたので、あまり勉強できてない。
6月
東大・NAIST出願。
気が病まないように週一は絶対に誰かとご飯を食べようと決めていた。誘われてスケボーをしてみた。2時間やったけど前に進まなかった。悔しい。
先月よりは勉強した。
7月
最初の週にNAIST本番。
ちょくちょく息抜きしながら勉強。
中旬にNAIST発表。一安心。もうここで良いかとなり、NAISTボーイズみたいな名前のYouTuberの動画で生駒市の予習を始める。
月末に東大の書類選考が発表。30人以上落ちていた?様でびっくりした。
数学ばかりやっていた気がする。費用対効果で言えば、絶対離散数学とかアルゴリズムをやっておく方がよかったなと思うけど、結果論。
8月
最初の週に東大の共通数学。普通に半分も取れてなさそうで、ありゃりゃ~となったけど何故かあんまり焦らなかった。まあそらそうか~、みたいな。
最後の悪あがきをして、2週間後に専門試験と面接をオンラインで受験。
9月
東大発表。
対策
数学
以下に取り組みました。
- 教養時代の微積・線形の参考書
- 常微分方程式キャンパス・ゼミ
- 複素関数キャンパス・ゼミ
- 入門統計解析
- 現代数理統計学の基礎
- 東大工学系研究科共通数学の過去問
- 演習大学院入試問題[数学]I
- 演習大学院入試問題[数学]II
失敗したなと思うのは、基礎固めということで微積・線形・常微分方程式などの参考書を2,3周したのですが、それよりは早めに演習大学院入試問題に手を出して強引にステップアップすればよかったなと思いました。数学ができる内部生たちからは、誘導が丁寧なので教養の微積・線形レベルで十分解ける問題という評価がありますが、これらは普段から数学の訓練を受けている人たちの感想であり、普段数学を使っていない人にとっては発想から難しいような点もあると感じました。ですので、色んな大学院の過去問を見て考え方を身に着ける練習の方が点には繋がったかなと思いました。工学系の過去問は、情報理工学系より基本的な内容なので、参考になりました。
ただ、文系や非数学系の人で専門科目も一から対策するような人にとっては、数学をやりこむ時間があったら少しでも専門科目のカバー範囲を広げる方が得策かもしれないと感じました。
専門科目
専攻から参考書籍が提示されています。
これを見て一冊も読んだことないのに「よし!受けるかぁ」となってるそこのお前(と一年以上前の僕)、バカすぎて推せる。
当然、これを全て勉強する必要は一切ありません。内部生=理学部情報科学科の学生は講義の資料の復習を中心にしている人も多いようですし、内部進学M1内でも「パタへネはやった方がいい」「パタへネはオーバーキルだと思いやっていない」など様々あるようです。逆に、これを全部取り組むわけにはいかないので、外部の人や非情報系の人は、まずは情報を集めて作戦を建てましょう。
自分は、以下のようなサイトを参考にさせて頂きました。この合格体験記も今後誰かの参考になればと思います。
色々読んでいると、各分野これは皆読んでそうだなという本が定まってきますので、取り敢えず入手して、意味分からんのを我慢して1周します。1周したら、過去問を眺めます。1周程度だと自分の場合、まだ何を聞かれているのかすら分からない問題が大半でした。分からんなあと思ったら、本をもう1周読みます。最初の通読時にもうさっぱり何を言っているのか分からなかったという場合、自分のレベルに合う参考書にランクを下げて取り組むのがよいと思います。例えば自分は、「離散数学への招待 上」の前に「やさしく学べる離散数学」を読んだり、「オートマトン 言語理論・計算論 Ⅰ」が本当に分からず、「オートマトン・言語理論の基礎」を2周した後受験直前に読み直したら解像度があがったといったことがありました。
こうして、参考書を読むのと過去問を眺めるのを繰り返すことで、自分のざっくりとした進度が確認できます。これを繰り返して、どこかのタイミングで「調べながらなら解けそうだな」となったら、次は何かしらで演習を積み始めるのが本来なら理想です。ただ、参考文献にある演習問題は解答が付いていないことがほとんどです。自分はそれが耐えられないので、パタへネ等答えが見つかるものはちょくちょく解きましたが、基本的には何度も読んで、定理は証明を考えて、という形で本に書いてあることだけを少しでも吸収しようとしました。
色々書きましたが、自分は専門科目の対策がかなり遅すぎたと思います。具体的には、「離散数学への招待 上」は8月に買って11時間ほど取り組みましたが、何周もするべき本だったように感じますし、「アルゴリズムイントロダクション」は半年前とかからやってもよかったくらいだなと思います。プログラミング言語論のように全く対策できなかった分野もありました。逆に、形式言語はかなり前から取り組んでいた気がします。
内部進学生とのギャップを考えた時、アーキやOSは覚えることを覚えれば埋まりやすい一方で、アルゴリズムや離散数学は文系と理系で訓練の差が大きいです。これを分かっていながら、対策を何となく後回しにしたのは失敗でした。これから対策する方は、この二分野は絶対優先して取り組むべきだと思います。
最終的に取り組んだ書籍は以下です。自分のように0から始める人は参考になさって下さい。ここに挙げたものは全部大事だと思いましたが、特に重点的にやるべき(だった)ものは太字にしました。
以下の2つは一度読んでそれ以降手を付けていません。ちゃんと読みます。
数値計算・プログラミング言語論も十分出題され得るのですが、自分がノータッチだったので特に言えることがありません。。
学習記録
眺める程度にどうぞ。自分が読んだ先人のブログで「一日10時間図書館にこもってアルゴリズムイントロダクションを読んだ」みたいな人がいましたが、自分は結局YouTubeと仲良くしてしまったのでそんなに長時間はできませんでした。
研究計画書
出願時の書類の中に、研究計画書というのがあります。A4 2枚分で興味のある研究内容や手法についてまとめるものです。NAISTの場合、この研究計画の配点が高かったり面接での話題のメインになったりしてかなり重要なのですが、正直東大受験においてはほとんど見られていないと思いました。内部生が修士入ってすぐ教授に研究計画の話を振ったら全く覚えてなかった、という噂もあります。実際、後述するように自分は面接で研究計画の話を一切振られませんでした。もしかしたら、書類審査のスクリーニングにしか使っていないのかもしれません。ただ、以上の話は全く根拠がないので、力の入れ方は各々の判断ということになろうかと思われます。
形式の話をすると、研究について「テーマ→概要→概念の説明や定義づけ→課題の説明→解決手法の提案→評価基準・方法」という構造で書きました。手法と評価は当然大したことは書けないので、先行研究+αとなります。参考文献は7つで、うち6つが和文、更にうち一つは実は論文ですらなく美大院生の修士卒業製作の引用ということで、結構大丈夫か?という感じですが、問題なかったようです。研究計画を書いたあと、最後の7,8行で修士課程での過ごし方や研究室の志望理由に言及しました。
NAISTを受けるのであればどうせ作りこむ必要があると思いますが、東大のみの受験の場合、院試が忙しくなる前に、ごく短期間で集中して書き上げるくらいが正しいアプローチだと思いました。
英語
東大の出願にはTOEFL iBTが前提とされています。地元の会場で受験し、91で提出しました。Home Editionで受けたら静かだし集中できて点爆上ゲぢゃね!?ゎらと思って二回目を受けたら90でした。お金が勿体なかったです。
知り合いのM1(n=2)の点数は大体90くらいでした。たまたまかなり上の方かもしれません。下振れなことは無いと思います。
TOEFLの点数はほぼ合否に影響しないと専らの噂です。真偽の程は不明です。
本番
数学
対面で行われました。3題出題され、一問ごとにトイレ休憩が挟まりました。
一問目は線形代数だったのですが、(1)の時点で誘導に乗れず、行列を一個も書くことなくほぼ白紙で提出しました。二問目の微積分は誘導に乗っかり、計算するだけの問などはしっかり答えました。一様収束条件が出て、そこまでは勉強してないよ~と思いました。やっぱり杉浦解析くらいのを一度読んでおくべきだった。三問目の確率はとりあえず解答を書き殴りましたが、未だに合ってるのか間違っているのか分かりません。どう好意的に見積もっても全体で5割無さそう。
専門科目
オンラインでした。前半が設問1,2で、休憩をはさみ設問3,4を解きました。
去年から選択問題がなくなり全員同じ分野を解くことになっていたため、常識的に考えると自然言語処理とかバイオインフォマティクスとかは出さないだろうと踏んでいました。具体的には、形式言語・アルゴリズム・論理回路・アーキテクチャ・OS・ 離散数学あたりだろうと予想して、プログラミング言語論などは一切手を付けていませんでしたが、果たして読みは当たり、OS・アルゴリズム・形式言語・アーキテクチャが出題されました。
時間が60分で前後半どちらも時間が足りなかったです。自分は知識を入れるのに必死で過去問を時間を図って解くレベルに至りませんでしたが、知識面をクリアした人は早く解く練習を積むとよいと思いました。
試験後に明らかな間違いに気づく点がいくつかありましたが、書いた量だけで言うと、OS全部アルゴ半分形式言語6割アーキ6割という感じです。答え合わせとかはしていないので、開示まではサッパリです。
面接
オンラインでした。相手は、志望教官+似た分野の先生複数人でした。
まず最初は「ごく簡潔に1分で」志望理由の説明を求められたり、試験の出来などを機械的に聞かれました。対面の時代は外部受験生やボーダ付近の人が二回目の面接に呼ばれると聞いていましたが、自分も二回目が回ってきて、より踏み込んだ点を聞かれました。自分はB2-3の間で一年休学をしていたので、その間は何をしていたのかであったり、今の学部での活動や特筆すべき功績はあるかなどがありました。開発インターンの話や英語力などの話に繋げられたので、悪い印象は与えなかったと思います。
応用情報を取った話をした後に「アルゴリズムの問題の出来はどうでしたか?」という質問が来たので、「ごくごく基本的な知識の学習などはしているようだが、理系的な素養の方はどうなのだろう」ということを知りたいという意図を感じました。ちなみに、NAISTの面接時も応用情報の話の直後に、グラフ理論とかは勉強したのか、データ構造とアルゴリズムについてはどうかといった質問がきて、いくつかの比較ソートの名前と計算時間を上げて「このくらいは分かってますよ」アピールをするということがありました。院試の対策をしていて、応用情報の内容がいかに少なく楽だったかを痛感したので、そもそもアピールにもなっていなかったのかなという気持ちにもなりましたが、自分は研究とかも一切したことがないので、何も言わないよりマシだったとは思います。
やはり、就活とかではなくアカデミアということを考えると、一番アピールに繋がるのは「その学科の必修講義を取っていること」なのではないかと思っています。
事前に提出した研究計画書の内容についてや、研究室でどんな研究がしたいかについては、向こうからは一切触れられませんでした。
ごく数人が3回目の面接に呼ばれていましたが、自分は呼ばれませんでした。
感想・隙自語
外部受験の院試合格体験記は、口を揃えて「まさか受かると思っていなかった」と書かれている気がしますが、例に漏れずその気持ちです。一応研究科のHPで文学部思想文化学科から過去に進学例があるようなことは書いてあったので、それを頼りにチャレンジしてみて良かったです。
東大の内部とはいえ、半年の努力と運があれば受かるということが示されたので、文系や非情報系の方で本当にやりたいことがある人は、悩んだら取り敢えず受けてみればいいと思います。海外と違って受験料も高くないので。
特に、NLP分野は文系の志願者が多いかと思います。未経験の文系NLP志望はNAISTに行くのが環境的にもカリキュラム的にもベストという話もよくあり、自分も実際NAISTに行く気満々でしたが、それでも東大の情報理工を取り敢えず併願するのはかなりいいと思います。こんなに試験範囲が広く問題の難易度が高いCS系の院試は他にないと思うので、対策していてめちゃくちゃ勉強になりました。